今と昔の統合失調症の妄想
重症か軽症かの違いだけでなく、妄想の内容にも変化が認められる。
冒頭の引用文にもあったように、電磁気学や電子工学が存在しなかった時代に「電磁波攻撃」などという妄想が出現するわけがない。過去の時代の妄想は、違ったかたちで表現されていたはずである。では、昔はどうだったのか?
江戸時代の妄想については、私は資料を持っていない。しかし明治期以降の妄想については、藤森英之『精神分裂病と妄想』*2が参考になる。同書所収の調査は明治34年~昭和40年の都立松沢病院(とその前身の巣鴨病院)のカルテを調べまくったもので、統合失調症の妄想内容を集計したものだ。これもダイジェスト的に紹介すると、
・憑依妄想
キツネ・犬神・蛇・猫などが憑依するタイプの妄想は、昭和以降にはっきりと減少した。
・誇大妄想
「自分は神である」「自分は天皇である」といった妄想も減っている。明治期には誇大妄想の対象として「官軍大将」「大侯爵」「陸軍大佐」などが選ばれやすかったが、戦後には「代議士」「中小企業の社長」など、一般的で不特定多数な意味の「偉い人」が選ばれやすくなっている。
・物理的被害妄想
ここでいう物理的被害妄想とは、さきほどの「電磁波攻撃」といったたぐいの被害妄想である。これは数の上で増大しているだけでなく、バリエーションの面でも拡大している。明治時代には「電気」「エレキ」がほとんどだったが、昭和以降は、電波・隠しマイク・録音テープ・電子頭脳・超音波・X線・テレビ・放射能などが加わっている。
・心気妄想
癌・結核・梅毒などといった特定の疾患に罹っている妄想は増減していないが、異常体感を伴う奇異で頑固な妄想――身体幻覚やセネストパチー等を含む――は増大している。
・血統妄想
意外と減っていない。しかし過去の血統妄想は皇室だけでなく華族や大名の血筋を確信することもあったが、昭和時代からは専ら皇室が対象となっている。また、戦後には「自分はアメリカ人である」「外国籍である」といった国籍否認の症例もみられ、これも血統妄想と関連しているかもしれない。
……といった具合に、減っている妄想もあれば増えている妄想もある。いずれも社会状況を反映している側面が否めず、特に、物理的被害妄想にはテクノロジーの普及が大きな影響を与えていることがみてとれる。
- 統合失調症の症状、今昔 | Books&Apps (via rabbitboy)