“今から千年ばかり前の宋の時代に、中国の学者が、今述べたのと同じなりゆきに陥ったことがある。社会正義のための道徳を主張したのはいいのだが、現実に立脚したうえで「物事はこのような順序で、こう進んでいくべきだ」といった考えの道筋をとらなかった。 逆に、頭でっかちの理論を振りかざし、利益を摑むことを否定してかかったのだ。その結果、人々の元気がなくなり、国家も衰えて弱くなってしまった。ついにはモンゴルに攻め込まれてしまい、内部の混乱も続いて、とうとう元というモンゴル人の王朝をたてられ、統一される羽目となった。宋時代末期におきた、これは悲劇に外ならない。 このように現実に立脚しない道徳は、国の元気を失わせ、モノの生産力を低くし、最後には国を滅亡させてしまう。だから、社会のためになる道徳といっても、一歩間違えれば国を滅ぼすもとになることを、頭に入れておかなければならない。”
- 現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書) / 渋沢栄一 (via qsfrombooks)