そう言えば、おもしろいことがあったよ。
じーちゃんは、相変わらず遠くを眺める眼をしながら沖縄戦の記憶をたどっています。
ひとしきり特攻機がやってきて攻撃をした後にね、おれが空を眺めていると、高いところに天井をつくっていた雲のなかからポツンと黒点が現れてね。
それがみるみるうちに大きくなったかと思ったら、日本の水冷エンジンの急降下爆撃機なのさ。
「Judy っすね」と、言ってしまってから、「しまった」と思っているわっしのほうを
「おっ、知っているじゃないか」という顔で見やってニヤっと笑ってから、
そう、たった一機だけのね、と言う。
ところが、こいつがうまいパイロットでね。
びっくりするような急角度で突っ込んできたと思ったら船団の大型油槽艦の甲板のど真ん中に500キロ爆弾をたたきつけていったよ。
一瞬で、大爆発して、そうだなあ、2千メートルくらいはある火柱をふきあげて沈んじまった。
あんまり見事な間(ま)とタイミングなので、周りの船も対空砲火すらろくすぽ撃てない始末でね。
すぅーと、なんとなく戦場の「幕間」みたいなところにやってきて、狙い違わずぶつけていきやがった。
名人だったぜ、あれは。
それから、じーちゃんはしばらく黙ったな。
少し濁った青い眼が、湿っぽくなったようでした。
そのJudyが、そのあとやったことをおれは忘れられんのだ、と言う。
「?」
急降下から猛烈なプラスGの引き上げをやって急降下爆撃の見本をみせてくれたんだけどね、引き上げが終わってから、また反転して、なんとこれみよがしに海に突っ込んで自爆しやがった。
あの頃は、という頃になるとじーちゃんは声が出しにくそうである。ちょっと涙をぬぐったりしてます。
あの頃は….おれなんかは、いまでもそう思っているがね….おれたちはみんな「良いジャップは死んだジャップだけだ」と思っていた。
でも、あの操縦士の気持ちだけは、あいつがまるで自分の怒りを叩きつけるように自爆するのを身動きも出来ないで見つめていた同じ操縦士のおれたちには痛いほどよくわかったよ。
まるで声が聞こえてくるように判った、といえばいいかな。
あいつは、きっと、ほんとうは志願したくもないカミカゼに「無理矢理」志願させられたんだろう。日本人にはそういうところがある、というからね。
他の腕の悪い操縦士が次から次に犬死にしているあいだじゅう、雲のなかに隠れて旋回していたのだと思う。
雲間から様子をうかがいながらね。
キチガイじみた犬死に戦闘が終わったときを見計らって、あいつは、自分だけの戦いを戦いに降りてきたのさ、きっと。
やつが必死で訓練に訓練を重ねて磨き上げた腕をおれたちに見せに来た。
日本の操縦士がふらふらやってきてただぶち殺されるだけのものじゃないのを見せに来たんだと思う。
見事だったよ、実際。
あのときが初めてだぜ、日本人にも尊敬にあたいするやつがいるんだな、と思ったのは。
バカみたいに死ににくるだけじゃないんだ。
腕もあれば勇気もある奴がいたのさ。
”- 彗星_ある艦爆パイロットの戦い | ガメ・オベールの日本語練習帳v_大庭亀夫の休日 (via ginzuna)